
皆さん、こんにちは。スクールカウンセラーの環(たまき)です。
最近生徒さん方に『タマキン』と呼ばれることが多くなりました。ここでイケイケのヒューマンビートボックスをかませれば受けが良さそうなので最近勉強しています。
それはさておき、今回は私のカウンセリングルームを訪れる生徒さんの中で、毎年増えている「ある悩み」について…
それは、「先生、僕には夢や目標がなくて…」という物です。
夢や目標がないと悩む君へ。それは決して「ダメなこと」ではありません
「夢がない」という「夢」
「将来、何になりたい?」
誰もが一度は聞かれたことのある質問ではないでしょうか。 そして、その質問に、はっきりとした答えが言えなくて、モヤモヤした気持ちを抱えたまま、大人になった方も少なくないと思います。
昔は、この質問に答えられることが、まるで「良いこと」であるかのように扱われてきました。 「夢がある=立派」「夢がない=ダメ」という、なんとなくの風潮があったように感じます。 野球選手、サッカー選手、医者、先生、イラストレーター、お花屋さん…。 具体的な職業名を挙げて、目をキラキラさせて語る姿は、大人たちから「立派だね」「すごいね」と褒められました。
しかし、近年、私の元に相談に来る生徒たちの多くは、そんな**「具体的な職業の夢がない」ことに深く悩んでいます。** 「周りの友達は、将来の夢がはっきりしているのに、自分だけ何もなくて焦ります」 「進路希望調査の紙に、何を書いたらいいか分からなくて、不安になります」 「このまま、何も目標がないまま生きていっていいのでしょうか…」
彼らの言葉からは、「夢がない自分は、なんだか欠陥があるんじゃないか」という、根深い不安が感じられます。
夢や目標がないことは「おかしなこと」ではない
生徒たちの気持ちに寄り添いながら、私はまず、こう伝えるようにしています。
**「夢や目標がないことは、決して『ダメなこと』でも、『おかしなこと』でもないんだよ」**と。
なぜ、そう言い切れるのでしょうか。 それは、時代が大きく変わったからです。
かつては、「良い大学に入って、良い会社に就職し、家庭を持って…」という、画一的な幸せのモデルがありました。 しかし、今はどうでしょうか。 多様な働き方が認められ、起業したり、フリーランスとして活躍したりする人が増えました。 結婚して家庭を持つことも、もちろん素敵なことですが、それが「当たり前」ではなくなりました。 個人の価値観を尊重し、自分らしい生き方を探すことが、当たり前の時代になったのです。
つまり、「みんなと同じレールの上を走る」必要は、もうどこにもないのです。 そんな時代に、「将来、何になりたい?」と聞かれて、すぐに答えが見つからないのは、むしろ自然なことだと私は思います。
「夢がない」のではなく、 「探している途中」 「まだ、見つかっていないだけ」 「もしかしたら、一つに絞る必要すらないのかもしれない」
そう考えることが、まず第一歩です。 だから、どうか、自分を責めないでほしい。 君は、決して一人じゃないし、何もおかしなことはないんだよ。
じゃあ、何のために勉強を頑張ればいいの?
それでも、生徒たちからは、こんな声が返ってきます。 「でも先生、夢や目標がないと、何のために勉強を頑張ればいいのか分かりません…」
すごく素直な、切実な問いかけだと思います。 周りのみんなが、夢に向かって一生懸命に頑張っているように見える中で、自分だけが「何となく」過ごしているような焦りを感じるのかもしれません。
そこで、私は、生徒たちにこう提案します。
「じゃあ、もっと大雑把に、自分の『願望』を考えてみようか」と。
「夢」というと、なんだかすごく立派で、キラキラしたものを想像してしまいがちですが、「願望」はもっと身近で、正直な気持ちで良いのです。
例えば…
- 「とにかく推し活がしたい!」
- 「暖かい家庭を持ちたい!」
- 「楽して稼ぎたい!」
- 「実家でのんびり暮らしていたい!」
どうでしょう? これらは、夢というには少し身近すぎるでしょうか? でも私は、これらの「願望」こそが、将来の君を動かす、立派な「夢の種」になり得ると考えています。
「推し活」から未来の職業を考える
いくつか例を挙げて、一緒に考えてみましょう。
例えば、**「とにかく推し活がしたい!」**という願望。 これは、今の生徒たちから、本当によく聞く言葉です。
推し活には、お金がかかります。 コンサートや舞台のチケット代、遠征費用、グッズ代、CDやDVDの購入費用…。 そして、推しに会うためには、たくさんの時間も必要になります。
つまり、**「推し活を思う存分するためには、お金と時間が必要」**ということが見えてきます。
では、お金と時間を手に入れるためには、どうすればいいのでしょうか。 「できるだけたくさんお金が稼げて、ある程度時間の融通が利く仕事」って、どんなものがあるだろう? そんな風に、一緒に考えていきます。
- 自由な時間が作りやすい仕事…
- フリーランスのデザイナーやプログラマー
- 専門職(理学療法士、看護師など、シフト制で働く職種)
- 会社員でも、有給休暇が取りやすい会社を選ぶ
- お金が稼げる仕事…
- 専門的な知識やスキルを活かせる仕事
- 資格が必要な仕事(税理士、弁護士など)
- 自分の好きなこと(推し活)を仕事にする
- 例えば、推しのファンアートを制作して販売する
- 推しのグッズを企画・制作する
- 推し活の楽しさを伝えるブロガーやYouTuberになる
このように、「推し活」という、とても個人的でささやかな願望から、具体的な職業や働き方を考えることができるのです。 この子にとっての「勉強を頑張る理由」は、「推し活」という明確な目標に変わります。
「推し活を続けるために、お金を稼げるプログラマーになりたい!」 「そのために、今は情報系の学部に進学して、プログラミングの勉強を頑張ろう!」
どうでしょう? 「夢がない」と悩んでいた子が、少しだけ、未来に向かって歩き出すきっかけになると思いませんか?
他の願望から夢を広げるヒント
他の願望についても、少しだけ考えてみましょう。
「暖かい家庭を持ちたい」
これは、とても素敵な願望です。 では、「暖かい家庭」とは、どんな家庭でしょうか? 経済的に安定していること、家族で旅行に行く時間があること、安心して子育てができる環境であること…。
- 経済的な安定…
- 安定した収入が見込める仕事に就く
- 資産運用や投資について学ぶ
- 家族と過ごす時間…
- ワークライフバランスを重視した仕事を選ぶ
- 残業が少ない職種を探す
このように、「暖かい家庭」という抽象的な願望から、具体的な仕事やライフプランを考えることができます。 そして、「家族と過ごす時間を大切にできる仕事に就くために、今は様々な職業について調べてみよう」という風に、学習へのモチベーションが生まれてきます。
「楽して稼ぎたい」
正直で、とても良い願望だと私は思います。 「楽して稼ぐ」というと、聞こえは悪いかもしれませんが、これはつまり、**「効率よく稼ぎたい」**という願望だと捉えることができます。
そして「楽」は人それぞれ違います。「何も考えず力仕事をするのが楽」「クーラーの下でPCを操作するのが楽」あなたの思う楽とはなにか一度考えてみてください。
「なにもしない」で有名になった人もいます。やり方によってあなたの楽が生き方に変わる可能性は十分にあります。
「実家でのんびりしていたい」
これもまた、とても良い願望です。 「のんびり」と聞くと、何もしていないように感じるかもしれませんが、これは**「自分にとって居心地の良い場所で、ストレスなく生きていきたい」**という、とても大切な自己理解の表れです。
- のんびり暮らすためには…
- 在宅ワークやリモートワークが可能な仕事を選ぶ
- ストレスの少ない人間関係を築ける環境に身を置く
「実家でのんびり暮らすために、在宅でできる仕事を探してみよう。そのためには、インターネットやパソコンのスキルを身につけておこう」 そんな風に、日々の学習が、将来の自分のためになるという実感が持てるようになります。
この願望のためには良好な親子関係も必要ですね、ご両親の機嫌の取り方も学んでいきましょう
「夢の種」を育てていこう
ここまで読んで、「なんだか、夢ってそんなに大したことじゃなくても良いんだな」と感じてもらえたら、私はとても嬉しいです。
夢や目標がないと悩んでいる君。 それは、決して悪いことではありません。 むしろ、君は、「自分らしい幸せってなんだろう?」という、とても大切な問いに向き合っている真っ最中なのです。
そして、その問いの答えは、 「野球選手になる!」 「医者になる!」 という、具体的な職業名である必要はありません。
「推し活を続けたい」 「暖かい家庭を築きたい」 「楽して稼ぎたい」 「のんびり暮らしたい」
そんな、**君自身の、正直で、ささやかな「願望」こそが、将来の君を動かす、立派な「夢の種」**なのです。
保護者の皆さまへ。子どもたちの「夢」の応援の仕方
このブログを読んでくださっている保護者の皆さまにも、少しお伝えしたいことがあります。 もし、お子さんが「夢がない」と悩んでいたり、「将来何がしたいのか分からない」と言ったりしても、どうか焦らないでください。
そして、「もっとしっかりしなさい」「早く夢を見つけなさい」と、お子さんを追い立てるような言葉は、どうかかけないでください。 それは、お子さんを、より深く不安にさせてしまう可能性があります。
代わりに、お子さんの「ささやかな願望」に、耳を傾けてあげてほしいのです。
- 「そうか、推し活がしたいんだね。じゃあ、たくさんお金がいるね」
- 「暖かい家庭を築きたいんだね。それはお父さんもお母さんも、すごく嬉しいよ」
そうやって、まずは、お子さんの気持ちを**「受け止めてあげる」**ことが大切です。 そして、その願望を、一緒に具体的に考えてあげてください。
「推し活のためには、お金と時間が必要だね。じゃあ、どんな仕事があるか、お父さんと一緒に調べてみようか?」 「暖かい家庭を築くために、どんな風に生活していきたいか、お母さんと一緒に考えてみようか?」
そうすることで、お子さんは、**「自分の将来を、親と一緒に考えてもいいんだ」**と安心し、未来に対する希望を抱けるようになります。
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