
今回のご相談は『お母さんのヒステリーに悩んでいる』という方にお話しした内容を詳しくまとめたものです。

相談者さんは、数回の相談の後にお母さんと共にいらして
一緒に改善策を話し合うことが出来ました。
現在では模索の末、良い息抜きの方法が見つかった
とのことで落ち着かれたようです。
ヒステリーという言葉を聞くと、なんだか恐ろしい、感情的なイメージを持つかもしれません。
でも、ヒステリーは決して「悪い性格」や「わがまま」から来るものではありません。そこには、心と身体がSOSを発している、切実なメッセージが隠されていることがほとんどです。
この記事では、お母さんのヒステリーがなぜ起きるのか、そのメカニズムや原因、そして、様々なご家庭の状況に合わせた具体的な向き合い方について、スクールカウンセラーの視点から、できるだけ優しく、丁寧に解説していきたいと思います。少しでも皆さんの心が軽くなるようなヒントが見つかれば嬉しいです。
お母さんのヒステリー、どうして?〜その原因と向き合い方について〜
「ヒステリー」って、そもそも何?
まず、私たちが日常で使う「ヒステリー」という言葉について、少し整理してみましょう。
一般的に使われる「ヒステリー」という言葉は、感情のコントロールが効かなくなり、突然大声を出したり、泣き叫んだり、物を投げたりするような、感情が爆発する状態を指すことが多いですね。
これは、心の中に溜め込まれた様々なストレスや感情が、もう限界に達してしまい、まるでダムが決壊するように一気に溢れ出してしまう状態と言えます。 「なぜ、お母さんはあんなに感情的になるんだろう?」 「突然怒り出す理由がわからない」 そう思ってしまうかもしれません。でも、その感情の爆発は、実は、心と身体が耐えきれなくなったサインなんです。
お母さんのヒステリーが起きる仕組みと原因
では、どうしてそのような状態になってしまうのでしょうか?その仕組みと、背景にある主な原因について見ていきましょう。
1.心と身体のコップが溢れている状態
想像してみてください。私たちの心と身体には、それぞれコップのようなものがあります。 このコップには、日々の疲れ、プレッシャー、不安、怒り、悲しみといった様々な感情が少しずつ溜まっていきます。
- 子育てのストレス:子育ては24時間休みなし。睡眠不足、自分の時間が持てない、思うようにいかない子育てへの焦りなど、ストレスは尽きません。
- 家事の負担:家事もまた、終わりがない仕事です。毎日繰り返される家事の山に、精神的にも肉体的にも疲弊してしまいます。
- 夫婦関係の悩み:パートナーとのコミュニケーション不足や、価値観の違いによるすれ違いも、大きなストレスになります。
- 社会的な孤立感:「ママ友との関係がうまくいかない」「周りに相談できる人がいない」といった孤独感も、心を蝕んでいきます。
- 過去のトラウマ:幼少期の経験や、過去の辛い出来事が、現在の心の状態に影響を与えていることもあります。
これらのストレスが少しずつコップに溜まっていき、ある日、些細な出来事(例えば、子どもがジュースをこぼした、パートナーが靴下を脱ぎっぱなしにした、など)が最後の「一滴」となり、コップから感情が溢れ出してしまいます。これが、ヒステリーとして現れるのです。
2.自己肯定感の低下
「自分はちゃんとしたお母さんじゃない」 「もっとうまくやらないと」 「周りのみんなはもっとしっかりしているのに…」
このように、自分を責める気持ちが強くなり、自己肯定感が下がってしまうことも、ヒステリーの大きな原因の一つです。 子育てや家事に完璧を求めすぎてしまうと、「理想の自分」と「現実の自分」のギャップに苦しむことになります。その苦しみが、怒りや悲しみといった感情となって爆発してしまうことがあるのです。
3.女性ホルモンの影響
女性の身体は、生理周期や更年期によって、ホルモンバランスが大きく変動します。 特に、生理前の**PMS(月経前症候群)**や、更年期には、イライラしやすくなったり、落ち込みやすくなったりと、感情の波が大きくなることがあります。 これは、自分の意思ではコントロールするのが難しい、身体的な変化が原因です。本人が一番辛いと感じていることも少なくありません。
様々な家庭に合わせた対処法
では、お母さんのヒステリーに対して、私たちはどのように向き合っていけばいいのでしょうか。 ご家庭の状況によって、できることは異なります。いくつかのパターンに分けて、具体的な対処法を提案します。
パターンA:お母さんご本人が「どうにかしたい」と思っている場合
もし、お母さんご自身が「こんな自分は嫌だ」「子どもに辛い思いをさせている」と悩んでいらっしゃるなら、それは大きな一歩です。 「変わりたい」という気持ちが、解決への一番の原動力になります。
- 自分のコップを空にする時間を作る
- ほんの数分でもいいので、一人になれる時間を作りましょう。好きな音楽を聴く、温かい飲み物を飲む、好きなアロマを焚くなど、心が落ち着くことをしてみてください。
- **「パーソナルスペース」**を確保することが大切です。
- 感情を「見える化」してみる
- 日記やノートに、その日あったことや感じたことを書き出してみましょう。
- 「今日は子どもが言うことを聞かなくてイライラした」
- 「パートナーに感謝の言葉がなくて悲しかった」
- 自分の感情を客観的に見つめることで、ストレスの原因がどこにあるのかが見えてくることがあります。
- プロの力を借りる
- 「自分一人ではどうにもならない」と感じたら、心療内科やカウンセリングの専門家を頼ってみましょう。
- 専門家は、あなたの感情を否定することなく、どうすれば楽になれるかを一緒に考えてくれます。
- 「心療内科に行くなんて大げさかな…」と思うかもしれませんが、風邪をひいたら病院に行くように、心が疲れたら専門家を頼るのは自然なことです。
パターンB:子どもがヒステリーに悩んでいる場合
お母さんのヒステリーに直面しているお子さんや、ヒステリーを目の当たりにして辛い思いをしている方へのアドバイスです。
- 「ヒステリーは貴方のせいじゃない」と知る
- まず、**「お母さんのヒステリーは、あなたのせいではない」**ということを心に留めておいてください。
- お母さんが感情を爆発させるのは、お母さん自身の心のコップが溢れているからです。
- あなたが悪いことをしたから、お母さんが怒っているわけではないのです。
- 安全な場所に避難する
- もしお母さんがヒステリーを起こし始めたら、まずは自分の安全を確保しましょう。
- 別の部屋に移動する、近所の信頼できる人に助けを求める、などの行動も選択肢の一つです。
- 辛い状況から一時的に距離を置くことは、自分を守るためにとても大切なことです。
- 信頼できる大人に相談する
- 学校の先生やスクールカウンセラー、親戚など、信頼できる大人に今の状況を話してみてください。
- 一人で抱え込まないでください。あなたの話を聞いてくれる人は必ずいます。
- 誰かに話すことで、気持ちが楽になるだけでなく、解決策が見つかるきっかけになることもあります。
パターンC:パートナーがヒステリーに悩んでいる場合
奥さんのヒステリーにどう接すればいいかわからない、というパートナーの方へのアドバイスです。
- まずは「理解しようとする姿勢」を見せる
- 「またか…」と諦めたり、怒ったりする前に、**「どうして今、こんなに辛そうなんだろう?」**と、その背景を想像してみましょう。
- 「どうしたの?疲れてるんじゃない?」と、まずは優しく声をかけることから始めてみてください。
- 具体的な協力を申し出る
- 「手伝うよ」という言葉だけでは、何をすればいいのか分からないことが多いものです。
- 「ご飯は僕が作るよ」「子どもとお風呂に入ろうか」「買い物に行こうか?」など、具体的に手伝えることを提案してみましょう。
- 家事や育児を**「手伝う」のではなく、「一緒にやる」**という意識が大切です。
- 「話を聞く時間」を作る
- 毎日、ほんの10分でもいいので、奥さんの話を聞く時間を作りましょう。
- その時に、アドバイスをしようとしたり、解決策を出そうとしたりする必要はありません。ただ、「うん、うん」と相槌を打ちながら、聞いてあげるだけで、奥さんの心は軽くなることがあります。
決して現代病ではない。ヒステリーに関するお話
ヒステリーという言葉は、ギリシャ語の「hystera(子宮)」に由来しています。 古代ギリシャの医師たちは、女性が感情的になったり、奇妙な症状を示したりするのは、子宮が体内をさまよっているせいだと考えていました。 そして、子宮を元の場所に戻すために、良い香りを吸わせたり、逆に嫌な香りを嗅がせたりといった、ユニークな治療法が行われていたそうです。
もちろん、現代の医学では、ヒステリーと子宮が直接関係しているとは考えられていません。 この小話は、昔の人たちが、心を悩ませる症状の原因を、必死に理解しようとしていた証拠なのかもしれません。 この話を通じて、ヒステリーというものが、決して「新しい問題」ではなく、古くから人々を悩ませてきた、普遍的な問題であることがわかります。
ヒステリーはわがままから来るものだと感じる人へ
一般的にヒステリーを起こされた側からすると、「なぜそんな事で怒るのか分からない」「話が通じない」といった戸惑いや憤りを感じることが多いでしょう。特に、相手の怒りや感情の爆発が、自分にとって些細な出来事や、全く予想していなかったタイミングで起こると、「ただのわがままではないか」と感じてしまうのも無理はありません。
しかし、ヒステリーの背景には、単なるわがままや気まぐれでは片付けられない、もっと複雑な心の状態や身体の反応が隠されています。ヒステリーは、本人が意識的にコントロールしているわけではなく、むしろ本人が最もその状態に苦しんでいる場合が少なくありません。
わがままに見える行動の裏側にあるもの
ヒステリーを起こす人は、しばしば「自分の感情を適切に表現する方法」を知らない、あるいは、過去の経験から「感情を出すこと自体が許されない」と感じて育った可能性があります。そのため、心の中に溜め込んだ不満、不安、ストレスが、許容量を超えた時に、コントロールできない怒りや悲しみとなって噴き出してしまうのです。
「なぜそんなことで怒るのか分からない」の正体
怒りの引き金があなたには些細なことでも、本人にとっては**「長年のストレスの蓄積が限界に達した瞬間」**かもしれません。コップに少しずつ水が注がれていき、最後の一滴で水が溢れるように、本人の中ではたくさんの我慢や不満が積み重なっていた可能性があります。その最後の一滴が、あなたにとっては些細な出来事だった、というわけです。
ヒステリーは、「助けてほしい」「分かってほしい」というSOSのサインであることも少なくありません。しかし、そのサインをうまく言葉にできず、感情的な行動として現れてしまうのです。
相手を理解する第一歩
ヒステリーを目の前にすると、冷静でいることは非常に困難です。しかし、もし可能であれば、「この怒りの裏には何があるのだろう?」と少しだけ視点を変えてみてください。
**「わがまま」と捉える代わりに、「相手が今、どうしようもなくつらい状態なのだ」**と考えてみることが、相手の行動を理解し、あなた自身の心の平穏を保つための第一歩になるかもしれません。そして、相手の感情に巻き込まれず、自分の安全と心の安定を最優先に考えて行動することが何よりも大切です。
最後に、何よりも大切にするべきは貴方の心だということ
ここまでお読みいただいた方は、身近な人間やご家族のヒステリーに悩んでいる、もしくはご自身がヒステリーを起こしてしまうことに悩んでいるでしょう。
ここからは貴方の心を大切にするため、対応する方を選択しお読みください。
ご家族のヒステリーに寄り添おうと考えているあなたは、本当に心優しい方ですね。その気持ちは、きっとご家族にも伝わるはずです。
一方で、寄り添う余裕なんてない、と感じた方もいらっしゃるかもしれません。無理もありません。ご家族のヒステリーに日々向き合うことは、想像以上に心をすり減らし、知らず知らずのうちに深いダメージを負っていることもあります。
そんな時こそ、まずあなたの心を守ることを第一に考えてください。自分を大切にすることが、結果として、大切なご家族との関係を健全に保つことにつながります。
まずは、あなたの中で一番大切なものを整理してみましょう。それは、あなたの心身の健康でしょうか? 一緒に暮らすご家族でしょうか? それとも、夢や目標でしょうか?
その「大切なもの」を明確にすることで、それを守るための行動が見えてきます。
そして、その大切なもののために、ご家族のヒステリーに寄り添うか、それとも距離を置くか、その決断は、あなたの心が決めることです。
それは、どちらが正しいとか、間違っているというものではありません。
寄り添うことがあなたの心の平穏を保つ上で最も良い選択であれば、そうしてください。 もし、距離を置くことがあなたの心を一番守るための選択であれば、そうしてください。
大切なのは、その決断が**「あなたの心を守るための最善の選択」**であることです。
ヒステリーの改善への一歩は、対話から始まります。
しかし、言葉を交わすことが難しい、あるいはかえってイライラを増幅させてしまう場合もあるでしょう。そんな時は、無理に対面で話そうとしなくても大丈夫です。メモや手紙、あるいは信頼できる第三者(家族、友人、スクールカウンセラーなど)に仲介を頼むことも有効です。
大切なのは、「自分が何に対してイライラするのか」という気持ちを、ご家族に伝えることです。
例えば、「靴下を洗濯機に入れてほしい」と伝えたとしましょう。 あなたは、靴下が裏返ったままで洗濯機に入っているのを見て、イライラが募るかもしれません。「なぜ、ちゃんとひっくり返してくれないの?」と感じるでしょう。
しかし、ご家族からすると、「言われた通りに洗濯機に入れたのに、なぜ怒っているんだ?」と、あなたの気持ちが理解できないかもしれません。そして、その困惑した態度に、さらにあなたのイライラが募ってしまう。この負の連鎖は、非常につらいものです。
このようなすれ違いを防ぐために、具体的な行動を具体的に伝えることが非常に重要になります。
具体的な伝え方で、すれ違いを防ぐ
先ほどの靴下の例で考えてみましょう。
【改善前】 「靴下を洗濯機に入れておいてね。」
これだけでは、相手は「洗濯機に入れる」という行動しか認識できません。あなたの「裏返っているのを直す」という期待には気づくことができません。
【改善後】 「靴下を裏返したまま入れると乾きにくいから、裏表を直して洗濯機に入れてくれるかな?」
このように具体的に伝えることで、相手は「靴下を裏返す」という行動の必要性を理解しやすくなります。そして、何に対してあなたが困っているのか、イライラの原因も明確に伝わります。
これは、洗濯物に限ったことではありません。
- 「部屋をきれいに片付けて」ではなく、「リビングのテーブルの上にある教科書を、自分の部屋に片付けてくれると嬉しいな」
- 「もっとちゃんとやってよ」ではなく、「もう少しだけ、丁寧に畳んでくれると助かるな」
このように、具体的な行動を伝えることで、相手は「どうすればいいか」を理解し、あなたのイライラの原因を解消する手助けをしてくれる可能性が高まります。
また、**「なぜそうしてほしいのか」**という理由を付け加えることも効果的です。「乾きにくいから」「後で私が大変になるから」など、あなたの気持ちや状況を伝えることで、相手もあなたの気持ちに寄り添いやすくなります。
このような小さな工夫が、対話のすれ違いを減らし、お互いの関係をより良いものに変えるための大切な一歩となるでしょう。
そして、ここからが最も大切なことです。
やってほしいことをメモに書く際、「どうしてこんなことも言われなきゃわからないの?」と感じてしまうことがあるかもしれません。そのように感じた時、それはあなたの心が不安定になっているサインです。
そんな時こそ、その気持ちを正直に伝えることが非常に重要になってきます。
「今、私はイライラしているから話しかけないで」
これは、とても勇気のいる行動です。しかし、この一言には、以下の二つの大きな意味が含まれています。
- 境界線を引くこと: あなたの心身の安全を守るための**境界線(バウンダリー)**を引くことができます。「これ以上、私に近づかないでほしい」というあなたのSOSを、相手に伝えることができます。
- 自分の感情を認めること: 自分の感情を否定せず、「今、イライラしている」と素直に認めることで、感情に振り回されるのではなく、感情と距離を置くことができます。
あなたが感じているイライラや怒り、悲しみを言葉にすることは、あなた自身の心を癒すためにも、そして、ご家族との健全な関係を築くためにも、非常に大切な一歩となります。
どうか、あなたの心を一番に大切にしてください。
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